読書ロク

読んだ本の内容を、片っぱしから忘れてしまう自分のための記録

なぜ、虐待は起きるのか

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なぜ、虐待は起きるのか。

母親が極悪非道の人間だから?

いや、現実はもっと複雑だ。

 

帯には森達也さんのこんな言葉が書かれている。

「彼女は特別な誰かではない。

僕らの周囲に普通にいる誰かなのだ」

もっと言えば、彼女は

周囲の誰かですらなく、自分自身かもしれない、とも思う。

 

彼女の置かれた状況は、確かに特殊だった。

幼少期に母親からのネグレクトを幾度も経験し、

その後も仕事に没入する父親とは心理的な距離を感じながら

誰にも頼ることを知らずに育った。

問題に直面するたび、自分を自分から引き離すことでしのぐ、

解離という精神疾患を抱えて身を守った。

中学時代は非行に走り、性被害を受ける。

 

「早くママになりたかった(p.155)」

「自分が満たされなかった子ども時代を穴埋めしたい(p.155)」

「抱かれているあおいちゃん(娘)が、抱いている芽衣さん(本人)でもあった(p.159)」

「自分を丁寧に語ることができず、耳を傾けてもらえないまま離婚が決まった(p.189)」

「芽衣さんは決して相手に不満を表現しない(p.223)」

 

しかし、彼女がわたし自身、あなた自身ではないと、断言はできない。

「”溜め”を奪われた人たちは、追い込まれ、精神を病む。(p.201)」

育児の重みに押しつぶされて、つい子どもに手を挙げてしまう親がいる。

働いても働いてもお金にならなくて、追い詰められていく親がいる。

ほんの小さな何かの弾みで、簡単に”溜め”は失われうる。

そんな瞬間に、頼れる人がいるか。

 

孤独のなかで苦しむ人たちを、そのままにしておいてはいけない。

同じ悲しみを繰り返してはいけない。

彼女が、わたしが、あなたが、

社会から零れ落ちてしまわないために、なにができるだろう?

 

 

杉山春(2013)『ルポ虐待ー大阪二児置き去り死事件』ちくま新書

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